<<March 2015 | メイン | May 2015>>
Global Program 2013-2015 Singapore Round
2015.04.28-Tue
【 大西清知 記 】
2015 年3 月22 日(日)、
アジアで最もHotな都市のひとつシンガポールで、
アジア-パシフィックで活躍する臨床家の症例や治療技術を
互いに伝え合うことを趣旨とするカンファレンス、
A-PAC が開催されました。
会場はシンガポールの中心地オーチャードにある、
T32 Dental Academy。
シンガポールを代表する歯科医師Dr. Keng Mun WONG の
プライベートオフィスでの開催です。
プライベートオフィスなのに、
なんと70人も入れるホールを完備。
手術室、技工室はもちろんのこと、
小児歯科の診療室は男の子部屋と女の子部屋に分かれているなど
桁違いの規模に驚きました。
会場には香港、台湾、オーストラリア、フィリピン、インドネシア等、
アジア各国より新進気鋭の歯科医師が、70 名参加。
発表者は10数名、日本からは東京SJCD 北原信也先生、
中村茂人先生、Club GP からは当院理事長の佐藤琢也先生をはじめ、
山中隆平先生、僭越ながら小生も発表させていただきました。
日本人歯科医師の症例は、
みなさん繊細で低侵襲。
講演後も質問攻めにされていました。
講演やディスカッションで感じたことは、
アジアの先生方はとにかく金属を使わない、
Dr. WONG のオフィスにも、
もちろん最新のCAD/CAM システムが完備されており、
Digital Dentistry の実践は必須であると実感しました。
また、現地での食事といえば、
なんといってもチキンライス。
ホテルマンダリンオーチャード2階の
チキンライス有名店でいただきました。
チキンライスといっても
日本のチキンライスとは似ても似つかない、
蒸し鶏とご飯、スープのset です。
円安の影響もあると思いますが、
シンガポールの物価の高さは驚きでした!
ビール生中サイズで一杯1500円、チキンライスが3500円、
高価な昼御飯となりました。
来年のA-PAC は日本開催予定、
アジアの先生方を日本にお招きするのは
今から楽しみです。
英語、がんばらねば・・・
今月のインプラント関連の最新論文
2015.04.17-Fri
【 佐藤琢也 記 】
デンタルインプラントセンター大阪では毎月、
インプラントと歯周病に関連する最新英論文を翻訳する勉強会が開催されております。
今月はインプラントを学ぶ歯科医師の先生向けに下記の論文を紹介させていただきます。
スウェーデンにおけるインプラント喪失に関する多変量解析(大規模・後ろ向きコホート研究)Title :Effectiveness of implant therapy analyzed in a Swedish population: early and late implant loss.
Author :Derks J, Håkansson J, Wennström JL, Tomasi C, Larsson M, Berglundh T.
Journal:J Dent Res. 2015 Mar;94(3 Suppl):44S-51S
PURPOSE
スウェーデン社会保険庁(SSIA)にて登録されたインプラント治療患者のビッグデータを無作為抽出し,国民のインプラントの喪失に関わる因子を統計学的に検討する.
MATERIALS AND METHODS
➀上部構造装着前の脱落= early implant lossを評価
インプラント治療の既往のあるSSIAの患者データを基に,2003年にインプラント治療を受けた65-74歳(23,000人以上)より3,000名を無作為に抽出.さらに,45-54歳の患者1,716名のデータとあわせてインプラントの早期の喪失について調査.合計,患者2,765名,11,311本のインプラントについてのデータが得られた.
②上部構造装着後の脱落 = late implant lossを評価
さらに,この中から900名を無作為抽出し,治療後9年のインプラントの状態を調査するため,無料の定期検診の案内書を送付し,これに応じた患者596名,2,367本のインプラントについてのデータを得た.
fig インプラント喪失に関わるデータの獲得
インプラント治療時の患者の既往歴(糖尿病・心疾患)・歯周疾患・喫煙・定期受診の頻度・インプラント直径・長径・一回法か二回法か・骨造成の有無・インプラントブランド・埋入部位・上部構造のデザイン・インプラントの結合様式・荷重時期・抗生剤投与の有無,をインプラント喪失に影響を及ぼす因子として調査し,多重ロジスティック回帰分析によりその関連を評価した.
RESULTS
➀ early implant loss
患者121名(4.4%)における,154本(1.4%)のインプラントの喪失が記録された.これと統計学に有意と考えられる因子は,歯周病の既往(OR3.3),喫煙(OR2.3),インプラントの長径(10mm以下(OR3.8)),インプラントブランド(Straumannを比較に,ノーベルバイオケア(OR1.9),アストラテック(OR2.1),その他(OR7.8))であった.
②late implant lossを評価
患者25名(4.2%)における,46本(0.2%)のインプラントの喪失が記録された.
これと統計学に有意と考えられる因子は,インプラントブランドのみ(Straumannを比較に,その他(OR58.15))であった.
CONCLUSION
大規模かつ国家的な本研究結果より7.6%の患者において,1本以上のearly, late implant lossが観察された.また,早期のインプラント喪失には,歯周病の既往,喫煙,インプラントの長さ,インプラントのブランドが関連しているかもしれない.
TOPIC OF CONCERN 1
POINT OF CRITICISM
本研究はスウェーデン社会保険庁(SSIA)のデータを用いた国家的な「後ろ向きコホート研究」であった.
それゆえに,研究グループが一つのインプラントブランドを利する研究結果を恣意的に創造したとは考えにくく,事実,本研究グループが他の研究にてサポートされていたアストラテック社にとってはあまり好ましくない研究結果であった.
本研究を好意的に評価できる部分として
国家的な大規模調査
ビッグデータによる統計学的研究としての意義
一地域,一大学,あるいは一グループに偏らない800人の臨床家の成績
適切な研究デザインによる後ろ向きコホートであり,術後9年間の長期データを採取している
メーカーによる恣意的なバイアスの入る余地がないデータの抽出方法
多岐にわたるインプラント脱落の要因を多重ロジスティック回帰分析により検討する手法
結果,論点は明確で「わかりやすい」内容の論文
などといった点を訳者は列挙したい.
そしてこれらの手法の結果,➀歯周疾患の既往,②喫煙,③インプラントの長径,④インプラントブランドの相違,の因子がインプラントの喪失に少なからぬ影響を及ぼしたという刺激的な結論が得られた.
しかし,④インプラントブランド別の評価について,確かに統計学的には有意差が認められたものの,結論付けるにあたってはいくつかの点で問題が残ると考えられる.訳者が指摘する問題点を以下に説明したい.
❒サンプルサイズ,イベント数の問題
(👉 N数が少ない)
SSIAのメガデータから得られた結果であるが,early implant lossであってもインプラント喪失の本数(総イベント数)は僅かに154本に過ぎない.
Table2のデータを用いると,その内訳は下記と予想される(%表記であったため).
Table4 改編,early lossインプラントの実数
一方で然るべき結果を得るためのサンプルサイズと総イベント数を統計学的に明確に提案することは難しく,これらは様々な条件により変化するものである.しかし,各群の総イベント数は100前後であるべきであり1),さらに厳密にこれらを決定する際には,総イベント数400 ,総サンプル数は4,000 以上という閾値を,一定の基準として設定すべきという意見もある2).
いずれにせよ本研究のイベント発生数は少ないように考察される.
late implant lossのデータについてはさらにイベント数,サンプル数が少ない.従ってデータも非常に粗くなる.
Table4 改編,late Lossインプラントの実数
とくにD社のOdds比は95%信頼区間の幅は三桁を越えている.確かにAとDのOdds比に統計学有意差は認められるが,これは精度に優れる結果とは到底言ないであろう.
❒患者情報の不備
(👉 インプラントの実数が不明)
ブランド別のインプラントの本数が掲載されておらず,喪失数の実数に関しても%表示だけで詳細が確認できない.また,多数喪失症例の情報も詳細が把握できない.
本文ではearly implant lossの患者121名中,4本のインプラントの喪失を経験した5名存在するとしているが,これがどのブランドにてカウントされているのかによって結果に大きな影響を及ぼすことが予想される.しかし,ブランド別の詳細は不明である.
また,late loss implantについては2名の患者に5本のインプラントの喪失が認められた.この患者のインプラントブランドの結果に大きな影響を及ぼしていることは間違いない.
❒アウトカムの評価方法
(👉 患者ベースの評価は?)
インプラントの喪失本数のみで評価するのではなく,インプラントの喪失を経験した患者数(subject数の評価)による比較検討も行うべきであっただろう.これにより「4本,5本のインプラント喪失患者の行き先による影響」もある程度は補正できたと考えられるが,このような試みは本論文では示されていなかった.
❒サンプリングバイアス(交絡)の影響
(👉 術式の違い?)
インプラントの製品の善し悪しによる影響ではなく,そのブランドが推奨,あるいは提案する術式による差異が結果に影響を及ぼしている可能性も否定できない.後ろ向きコホートゆえに,術式が厳密に統一化されていたわけではない.
❒ Odd比ではなくARR(絶対リスク減少)
(👉 相対評価をするべきではない)
例えばOdds比でA社とB社ブランドのearly lossをOdds比にて比較すると1.94と大きな差を印象付ける.また,RRR(相対リスク減少)はB社からA社インプラントを使用することで(1.3-0.7)÷0.7×100=85% ∴85%のリスク減少,となる.
しかし,ARR(絶対リスク減少)はわずか1.3%-0.7%=0.6% ∴0.6%のリスク減少
でしかない.
このわずかな差で「インプラントブランドはインプラント喪失の因子」といえるのであろうか?
1. 臨床試験のための生物統計学入門 Available from: http: www.csp.or.jp/cspor/upload_files/arch_14.pdf
[Update:2015.2.26. cited, 2015.4.15]
2. 内科医のエビデンスに基づく医療情報GRADE
Available from: http: www. aihara.la.coocan.jp/[Update:2015.1.20. cited, 2015.4.15]
今月のインプラント関連の最新論文
2015.04.15-Wed
【 佐藤琢也 記 】
デンタルインプラントセンター大阪では毎月、
インプラントと歯周病に関連する最新英論文を翻訳する勉強会が開催されております。
今月はインプラントを学ぶ歯科医師の先生向けに下記の論文を紹介させていただきます。
❒ P Value:P値
統計学的有意差
「グループ間の差はない」と仮説をした場合に「差が生じる」正しい確率。
有意水準α(例:P<0.05,P<0.01)を用いて「All or None」的な評価の尺度として用いられる
例: A社インプラントとB社インプラントとの10年生存率の差がP=0.043
A社とB社のインプラントの生存率に統計学的有意差あり
=A社とB社の差が生じない可能性は4.3%(P<0.05)
例: A社インプラントとB社インプラントとの10年生存率の差がP=0.08
A社とB社のインプラントの生存率に統計学的有意差には達しなかったが関連の存在は示唆される
=A社とB社の差が生じない可能性は8%(P>0.05)
❒ Significance Level:有意水準(α)
一つの目安
慣習的にP値が0.05を下回れば「統計学的有意差あり」と表現できる
さらに「あり得ない」事象の頻度としてP<0.01
0.05、0.01という数字を閾値とすることによる数学的な根拠はなく、P<0.05を用いるのが慣例として使用(統計学者フィッシャーの提言との説)
❒ 95% Confidence Interval:95%信頼区間
信頼水準95%(あるいは99%)を用いる
同じ試験を100回おこなったときに95回(99回)の試験結果が含まれる範囲
サンプル数が大きいほど、信頼区間の幅は狭くなる(サンプル数の大きさが反映)
例: 100回の実験をして52回の成功の95%信頼区間
成功率52%に対し、95%信頼区間は計算により42.2%~61.8%
例: 10000回の実験をして5200回の成功の95%信頼区間
成功率52%に対し、95%信頼区間は計算により51.02%~52.98%
P値のみではサンプル数、イベント発生数が少ない場合でも有意差が生じる場合があり、研究の精度(定度)を吟味できない
❒ Cohort Study:コホート研究
コホート(cohort)とは、古代ローマでは軍隊の一集団のことを意味し、疫学研究ではある期間にわたって調査される研究対象者の一群を指す
研究対象者から選んだ群(コホート)を一定期間にわたってフォローアップ(追跡調査)する研究デザイン
治療(介入)の効果や疾病の要因、発生率を研究するのに優れる質の高い研究。
2群を現在から将来にわたって追跡する前向きコホート研究(prospective cohort study)
過去にデータがあり、追跡開始時点から現在に向かって追跡する後ろ向きコホート研究(retrospective cohort study)
❒ Multivariate Analysis:多変量解析
1つの事象(アウトカム)に対して影響を与える因子を見つけ出し、その事象がどうなるか予測するための分析法
重回帰分析、多重ロジスティック回帰分析、比例ハザード分析などがある
❒ Odds Ratio:オッズ比
ある事象においてオッズ比が3ならば「AのほうがBに対して3倍事象が起きやすい」と言える
オッズ → ある事象の起こる確率(p)÷起こらない確率 Odds=p/(1−p)の値
オッズ比 → ある条件におけるオッズと別の条件におけるオッズの比
(AのOdds)÷(BのOdds)
例: 男女それぞれ100人に先週ビールを飲んだか? 男性は80人が、女性は20人が「Yes」
男性がビールを飲んだオッズ:80%対20% 0.8÷(1-0.8)=4
女性がビールを飲んだオッズ:20%対80% 0.2÷(1-0.2)=0.25
よって男性が女性よりビールを飲むオッズ比は 4÷0.25=16
例: A社インプラント3393本中23本の脱落、B社4638本中60本の脱落
A社を1とした場合のBのオッズ比: 60÷(4638-60)/ 23÷(3393-23)≒1.92
cf.relative risk,(RR, 相対リスク値): 60÷4638 / 23÷3393 ≒1.91
参考文献
1. 中山健夫.健康・医療の情報を読み解く:健康情報学への招待 第2版. 東京:丸善出版,2014.
2. スティーブンBハリー et al.医学的研究のデザイン–研究の質を高める疫学アプローチ-第3版 : 東京:メディカル・サイエンス・インターナショナル,2010.
3. 五十嵐中.佐條麻里. 「医療統計」わかりません‼. 東京:東京図書,2010
4. 佐藤琢也.ヘルスリテラシーを高める:地に足ついた医療への頭のトレーニング」.ザ・クインテッセンス(クインテッセンス出版),2011年7-12月