サトウ歯科 デンタルインプラントセンター大阪

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今月のインプラント関連の最新論文

2015.08.12-Wed

【 佐藤琢也 記 】


デンタルインプラントセンター大阪では毎月、
インプラントと歯周病に関連する最新英論文を翻訳する勉強会が開催されております。


今月はインプラントを学ぶ歯科医師の先生向けに下記の論文を紹介させていただきます。


スウェーデンにおけるインプラント喪失に関する多変量解析(大規模・後ろ向きコホート研究)Title :Effectiveness of implant therapy analyzed in a Swedish population: early and late implant loss.
Author :Derks J, Håkansson J, Wennström JL, Tomasi C, Larsson M, Berglundh T.                            
Journal:J Dent Res. 2015 Mar;94(3 Suppl):44S-51S


●企画趣旨
インターネットの普及により、学術誌を電子ジャーナルとして容易に入手することができる昨今、我々日本の歯科医師も海外論文から多くの情報を得て、日々の臨床に応用している。しかし、時にはこれらが恣意的に解釈されて公に広まり、結果、臨床のミスリードを及ぼす事象も散見されつつある。そこで本企画では、影響力が強く、とかく誤解されがちな2本の原著論文を取り上げ、客観的な解説をすることで、読者とその詳述を正確に共有できればと考える。


スウェーデンにおけるインプラント喪失に関する多変量解析
-大規模・後ろ向きコホート研究-
Title :Effectiveness of implant therapy analyzed in a Swedish population: early and late implant loss.
Author :Derks J, Håkansson J, Wennström JL, Tomasi C, Larsson M, Berglundh T.                            
Journal:J Dent Res. 2015 Mar;94(3 Suppl):44S-51S


序 論
これまでのインプラント治療の有効性はおもに専門医による小規模グループ内、もしくは大学病院におけるインプラントの生存率を用いた検討が行われてきた。しかし、これらの偏ったサンプルによって、その有効性が信頼性の高い方法により証明されたと言えるわけではなく、そのためには大規模で無作為に抽出した患者サンプルによるインプラントの生存率が必要とされる。そこで、本研究ではスウェーデン社会保険庁(SSIA)にて登録されたインプラント治療患者の大規模データを無作為抽出し,国民のインプラントの喪失に関わる

スウェーデンの成人はインプラント治療を含む歯科治療が保険適応され、社会保険庁に管理される。(SSIA, Försäkringskassan)2003年には65歳以上の患者へ助成金が増えたため、インプラント治療を選択される事が増えた。
本研究では大規模で無作為に抽出した患者対象でのインプラントの喪失について報告する。社会保険庁に登録された資料はインプラント治療を受けた患者の特別な抽出を可能とした。インプラント治療の有効性を評価する事を目的とした。

MATERIALS AND METHODS
➀上部構造装着前の脱落= early implant lossを評価
インプラント治療の既往のあるSSIAの患者データを基に,2003年にインプラント治療を受けた65-74歳(23,000人以上)より3,000名を無作為に抽出.さらに,45-54歳の患者1,716名のデータとあわせてインプラントの早期の喪失について調査.合計,患者2,765名,11,311本のインプラントについてのデータが得られた.
②上部構造装着後の脱落 = late implant lossを評価
さらに,この中から900名を無作為抽出し,治療後9年のインプラントの状態を調査するため,無料の定期検診の案内書を送付し,これに応じた患者596名,2,367本のインプラントについてのデータを得た.


fig インプラント喪失に関わるデータの獲得
インプラント治療時の患者の既往歴(糖尿病・心疾患)・歯周疾患・喫煙・定期受診の頻度・インプラント直径・長径・一回法か二回法か・骨造成の有無・インプラントブランド・埋入部位・上部構造のデザイン・インプラントの結合様式・荷重時期・抗生剤投与の有無,をインプラント喪失に影響を及ぼす因子として調査し,多重ロジスティック回帰分析によりその関連を評価した.


RESULTS
➀ early implant loss
患者121名(4.4%)における,154本(1.4%)のインプラントの喪失が記録された.これと統計学に有意と考えられる因子は,歯周病の既往(OR3.3),喫煙(OR2.3),インプラントの長径(10mm以下(OR3.8)),インプラントブランド(Straumannを比較に,ノーベルバイオケア(OR1.9),アストラテック(OR2.1),その他(OR7.8))であった.
②late implant lossを評価
患者25名(4.2%)における,46本(0.2%)のインプラントの喪失が記録された.
これと統計学に有意と考えられる因子は,インプラントブランドのみ(Straumannを比較に,その他(OR58.15))であった.


CONCLUSION
大規模かつ国家的な本研究結果より7.6%の患者において,1本以上のearly, late implant lossが観察された.また,早期のインプラント喪失には,歯周病の既往,喫煙,インプラントの長さ,インプラントのブランドが関連しているかもしれない.


TOPIC OF CONCERN 1
POINT OF CRITICISM
本研究はスウェーデン社会保険庁(SSIA)のデータを用いた国家的な「後ろ向きコホート研究」であった.
それゆえに,研究グループが一つのインプラントブランドを利する研究結果を恣意的に創造したとは考えにくく,事実,本研究グループが他の研究にてサポートされていたアストラテック社にとってはあまり好ましくない研究結果であった.

本研究を好意的に評価できる部分として
 国家的な大規模調査
 ビッグデータによる統計学的研究としての意義
 一地域,一大学,あるいは一グループに偏らない800人の臨床家の成績
 適切な研究デザインによる後ろ向きコホートであり,術後9年間の長期データを採取している
 メーカーによる恣意的なバイアスの入る余地がないデータの抽出方法
 多岐にわたるインプラント脱落の要因を多重ロジスティック回帰分析により検討する手法
 結果,論点は明確で「わかりやすい」内容の論文
などといった点を訳者は列挙したい.

そしてこれらの手法の結果,➀歯周疾患の既往,②喫煙,③インプラントの長径,④インプラントブランドの相違,の因子がインプラントの喪失に少なからぬ影響を及ぼしたという刺激的な結論が得られた.
しかし,④インプラントブランド別の評価について,確かに統計学的には有意差が認められたものの,結論付けるにあたってはいくつかの点で問題が残ると考えられる.訳者が指摘する問題点を以下に説明したい.


❒サンプルサイズ,イベント数の問題
(👉 N数が少ない)
SSIAのメガデータから得られた結果であるが,early implant lossであってもインプラント喪失の本数(総イベント数)は僅かに154本に過ぎない.
Table2のデータを用いると,その内訳は下記と予想される(%表記であったため).

Table4 改編,early lossインプラントの実数

一方で然るべき結果を得るためのサンプルサイズと総イベント数を統計学的に明確に提案することは難しく,これらは様々な条件により変化するものである.しかし,各群の総イベント数は100前後であるべきであり1),さらに厳密にこれらを決定する際には,総イベント数400 ,総サンプル数は4,000 以上という閾値を,一定の基準として設定すべきという意見もある2).
いずれにせよ本研究のイベント発生数は少ないように考察される.
late implant lossのデータについてはさらにイベント数,サンプル数が少ない.従ってデータも非常に粗くなる.

Table4 改編,late Lossインプラントの実数
とくにD社のOdds比は95%信頼区間の幅は三桁を越えている.確かにAとDのOdds比に統計学有意差は認められるが,これは精度に優れる結果とは到底言ないであろう.


❒患者情報の不備
(👉 インプラントの実数が不明)
ブランド別のインプラントの本数が掲載されておらず,喪失数の実数に関しても%表示だけで詳細が確認できない.また,多数喪失症例の情報も詳細が把握できない.
本文ではearly implant lossの患者121名中,4本のインプラントの喪失を経験した5名存在するとしているが,これがどのブランドにてカウントされているのかによって結果に大きな影響を及ぼすことが予想される.しかし,ブランド別の詳細は不明である.
また,late loss implantについては2名の患者に5本のインプラントの喪失が認められた.この患者のインプラントブランドの結果に大きな影響を及ぼしていることは間違いない.


❒アウトカムの評価方法
(👉 患者ベースの評価は?)
インプラントの喪失本数のみで評価するのではなく,インプラントの喪失を経験した患者数(subject数の評価)による比較検討も行うべきであっただろう.これにより「4本,5本のインプラント喪失患者の行き先による影響」もある程度は補正できたと考えられるが,このような試みは本論文では示されていなかった.


❒サンプリングバイアス(交絡)の影響
(👉 術式の違い?)
インプラントの製品の善し悪しによる影響ではなく,そのブランドが推奨,あるいは提案する術式による差異が結果に影響を及ぼしている可能性も否定できない.後ろ向きコホートゆえに,術式が厳密に統一化されていたわけではない.


❒ Odd比ではなくARR(絶対リスク減少)
(👉 相対評価をするべきではない)
例えばOdds比でA社とB社ブランドのearly lossをOdds比にて比較すると1.94と大きな差を印象付ける.また,RRR(相対リスク減少)はB社からA社インプラントを使用することで(1.3-0.7)÷0.7×100=85% ∴85%のリスク減少,となる.
しかし,ARR(絶対リスク減少)はわずか1.3%-0.7%=0.6% ∴0.6%のリスク減少
でしかない.
このわずかな差で「インプラントブランドはインプラント喪失の因子」といえるのであろうか? 

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